Trauma
ちょっとしたことで思わぬけがをすることはよくあります。歯や口腔内のけがもその中の一つですが、身体のけがとちがって以外に処置の仕方がわからないのではないでしょうか。、歯医者さんにかけ込む前にご家庭でできる応急処置の方法や、歯についての知識をご紹介します。
月星光博先生(著)「知ってて良かった、歯のけが口のけが」を元に作成いたしました。
歯のけが(外傷)を理解する上で、歯の成り立ち(解剖)をまず理解しておくことが大切です。
私たちが普段「歯」と呼んでいるところは、歯ぐき(歯肉)から顔を出しているエナメル質という部分で、歯冠と呼ばれています。
実際には、歯はこのエナメル質の他に、象牙質、セメント質、そして歯髄からできています。歯髄は普通「歯の神経」と呼ばれていますが、この部分には血管や神経が豊富に集まっています。
歯は、歯ぐきと骨の中から生えていますが、歯をしっかりと骨に固定する役目をになっているのが歯根膜という組織です。
歯の外傷で最も多いのが歯冠の破折です。この場合、最も大切なことは折れて取れた歯をすぐに探して保存することです。
そして折れた歯冠部をできるだけ早く歯医者さんに持ってゆき、適切な時期に適切な方法で、元の歯にしっかりと接着してもらいます。
外力により歯が骨から離れるような状態を生じることがあります。これを歯牙脱臼といいます。
この脱臼には、完全に抜け落ちてしまう、完全脱臼と、半分しか抜けていない不完全脱臼があります。
脱落はすぐに手当をすると歯を助けることができます。
しかしここで大事なのは、抜け落ちた歯の歯根膜が生きているかということです。歯根膜が生きている場合は、抜け落ちた穴(抜歯窩)に歯を戻す(再植)ことにより、歯は再び機能を回復します。また、歯の根の先が完全にできあがっていない場合には、神経も生き返ることがあります。
しかし、歯根膜は乾燥に弱く、口の外ではおよそ30分ぐらいしか生きていません。したがって歯が抜けたら30分以内に歯医者さんに戻してもらうか、自分で戻すことが大事です。
抜けた歯を助ける最も良い方法は歯を自分でまず元の位置に戻してみることです。もちろん地面に落ちた歯は水道水で洗ってから戻します。しかし、水道水で洗うのは30秒以内にしてください。これ以上水道水につけてしまうと歯根膜が死んでしまうためです。
もし抜けた歯を戻せない場合には、抜けた歯を口の中に入れて保存することです。ただし飲み込んでしまわないように注意が必要です。歯を唇と歯ぐきとの間に入れておくと飲み込んでしまう心配がありません。もし新鮮な牛乳がある場合には牛乳の中に入れて保存するのも良い方法です。もちろん生理的食塩水があればその中に入れます。そしてすぐに歯医者さんにゆきましょう。
この場合には、元の位置に押し込むか、できなければそのまますぐに歯医者さんにいってください。
医学の発展とともに、歯のけがの治療方法も進歩しました。以前であれば助からないと考えられていた抜けた歯や折れた歯が今では元通り治り、何年も審美や機能を保つことができるようになりまた。しかし、抜けた歯が助かるか助からないかは時間との勝負です。
すなわち抜けた歯の治療の最初は、けがをした現場ですでに始まっているのです。いかに早く抜けた歯を元に戻すか、または牛乳や口の中で保存できるかにかかっています。
このことは日頃、地域医療を通じて歯のけがの治療法についての知識を広めていくための啓蒙活動の重要性を意味しています。子供たちを多くあずかる教育現場や外傷を扱う緊急医療機関での歯のけがについての知識を広めることが望まれます。
どんな病気もけがも起きる前に予防できればそれに越したことはありません。 歯のけがは一見予防とは無縁のように思われますが、いくつかの注意点をあげることができます。
歯のけがは子供の遊びが活発化する時期に一気に増えます。まず、歩き始めの時期において親の注意が大切です。転落、転倒、くわえ歩き、はしゃぎ等、できるだけ顔を打たないように注意しましょう。
また、スポーツの最中には歯のけがが起こることが多いといえます。本人の顔面に対する保護意識が大切です。できればマウスガードの着用を勧めます。特に選手どうしの接触が多いスポーツクラブ活動では、マウスガードの着用の重要性を強調したいと思います。
歯並びが悪い場合、飛び出している歯ほどけがを被る確率が高くなります。従って歯並びを矯正により改善することも歯のけがの予防につながるかもしれません。けんかや事故などは骨折を含めた、より大きな歯のけがをもたらします。
冷静な日常生活を送りながら、歯のけがをできるだけ少なくしたいものです。